SHARE

eスポーツ市場が徐々にパブリックな存在に成長している過程はまさにPRだと解釈しており、少し長くなりますが、その考察をお読みいただけたら嬉しいです。

そもそもeスポーツとは

eスポーツとは “electronic sports” の略で、電子機器を使って行う競技、娯楽、スポーツ全体を指す言葉です。eスポーツという言葉は2000年頃から使われはじめたと言われており、国際的なeスポーツオリンピックとして著名な「WCG (World Cyber Games)」(2000年〜)や、「EVO (Evolution Championship Series)」(2003年〜※前身のBattle by the Bayから2003年に改名)など、世界規模の大会が登場し始めました。

こちらの映像はもしかしたら見たことがある方もいるかもしれません。EVO2004準決勝の、ウメハラ選手の伝説的なシーンです。

世界的にはこうした盛り上がりがあったものの、2000年代はあくまでコミュニティレベルでの盛り上がりに留まっており、プレイヤー人口もスポンサーもそこまで多くありませんでした。eスポーツの魅力や盛り上がりを広く日本の方々に伝える手法が、当時はかなり限られていたことも大きいと思います。

eスポーツシーンの成長

2010年代に入って、eスポーツシーンを大きく変えた出来事が2つありました。

まず1つは、SNSやライブ配信サービスの普及です。日本でTwitterやFacebookなどのSNSが登場したのが2008年。YouTube (2007年)、Twitch (2011年)などのライブ配信サービスもちょうどこの頃に普及しました。2000年代までとは違い、eスポーツシーンの盛り上がりや熱量を、個々人がリアルタイムに発信することができるソーシャルの力が、eスポーツを大きく後押ししたことは明白です。特に、Twitchの貢献は非常に大きくとても素晴らしいサービスなので、馴染みのない方もぜひご覧ください。毎日素敵な配信者たちがゲームや雑談で盛り上げてくれています。

もう1つは、メガタイトルの出現です。「DoTA2」「League of Legends」「CS:GO」などの今日のeスポーツシーンを語るのに不可欠な大人気タイトルが登場したのも2010年頃でした。DoTA2はeスポーツ大会の中でもっとも賞金総額が大きいゲームで、プレイ人口は1億人(参照)、世界大会の賞金総額は43億円(参照)を誇るメガタイトルです。このゲームを語り出すとテキスト量が大変なことになるので割愛します。

人が集まるところにはお金が集まり、お金が集まるところには人が集まります。こうしたメガタイトルの盛り上がりが、メディアや前述のSNSやライブ配信で全世界へリアルタイムに発信されることで、eスポーツが大きく飛躍する起爆剤となったのです。

CAPCOM Pro Tour 2019 アジアプレミア (参照)

日本のeスポーツシーンとPRのあり方

ここまで、世界的なeスポーツシーンの盛り上がりの軌跡の一部分についてご紹介いたしましたが、日本でeスポーツというものが広く受容されはじめたのは、本当に近年の傾向です。

「eスポーツっていうけど、たかがゲームでしょ…」このように思われることが日本では少なくありません。ゲームを、サッカーや野球のような「スポーツ」として広く語られるようにするためにはどうしたら良いか。長年ゲームパブリッシャーやeスポーツ関連団体、ユーザーコミュニティが抱えてきた課題は、まさにPRの力が解決に導くと考えています。

eスポーツが一般的なスポーツのように広く受容されるためには、2つのPR的な視点で解決していくことが必要です。

① eスポーツを「する」「みる」「ささえる」人たちを増やす
② eスポーツに社会的な価値を付加する

eスポーツを「する」人口を増やす

まず、eスポーツを「する」人口を増やすこと。そのなかでも、競技シーンをささえるプロ選手をどう増やすのかが重要です。

ゲームやサッカーなどのメジャースポーツと比べて、eスポーツではプロ選手の待遇や生活環境の整備など、多くの面で未発達だったことは否定できません。また「eスポーツで生きていくこともできる」というイメージが薄いことも、選手人口を増やすという点で大きな課題でした。この課題解決のために多くの方々が尽力していますが、PRの観点で大きな出来事として3つ挙げられます。

①JeSUの発足

2018年頃から、JeSU (一般社団法人日本eスポーツ連合) などのeスポーツの普及やプロライセンスを発行する団体が発足して、eスポーツの「プロ」のあり方が明確に示されるようになりました。こうした団体の発足には当時賛否両論がありましたが、第三者機関が、eスポーツのプロ選手を客観的に評価したりお墨付きを与える仕組みを作るのは、PRの常套手段であり、非常に大切な出来事でした。

②選手の待遇を保証するeスポーツリーグの誕生

例えば、NTTドコモが2021年に発足した「X-MOMENT」は、PUBGモバイルやRainbow Six Siegeなどのゲームタイトルで、プロチーム所属選手の年間給与を350万円以上保証するという制度を持っています。

これまではプロ選手でも給与が不安定だったり、生活環境の保証が不十分だったりすることがあったため、プロ選手の待遇や環境を保証するリーグが誕生したことは、日本のeスポーツシーンを健全に成長させる良い影響を与えています。こうした取り組みをメディアやSNSを通じて広げていくこともまた、PRの重要な役割です。

③日本選手の活躍とその発信力の強化

4月4日〜4月24日まで開催されたValorantというタクティカルシューターゲームの世界大会「2022 VALORANT Champions Tour Stage 1 – Masters Reykjavík」でZETA DIVISIONが成し遂げた快挙は、複数のTV番組やニュースは大々的に報道されていたので、ご覧になった方も多いと思います。

個々のeスポーツリーグ、プロチームが、メディアやSNSを通じた情報発信に力を入れ、eスポーツのプロとして活躍できている様子や、仕事としてゲームをしているというプロフェッショナリズムを伝える努力をしている点も、PR観点で大きく変わったなと感じます。

ZETA贔屓ではないのですが、ZETA DIVISIONというプロゲーミングチームは特に日頃からYouTube等でオフの選手の様子を配信したり、Vlogやショート動画など今風のコミュニケーションを積極的に取り入れていて素晴らしいです。

eスポーツを「みる」「ささえる」人口を増やす

eスポーツを視聴したり、応援したりしてくれる人たちを増やすこともまた大切です。コアプレイヤーだけでなく、カジュアル層をどう巻き込むかも重要な活動です。

コミュニティ形成

ゲームが持つ魅力や熱量を、コミュニティとして結集させる手法です。

「League U」は非常に良い施策で、個人的にも大好きなのですが、MOBAゲームとして不動の人気を誇る「リーグオブレジェンド」のコミュニティ施策です。大学生や専門学生のLOLプレイヤー人口を増やすことを目的として、数多くの支援プログラムを実施しており、各学校の生徒たちがLOLというゲームをプレイするだけでなく、新歓イベントや文化祭などの交流の機会も積極的に設けて、日常の一部にLOLが溶け込むような設計になっています。

League U (2016年〜)

シャドウバース学生広報部 (2020年〜)

eスポーツシーンでも非常に人気のあるカードゲーム「シャドウバース」の取り組みです。大学生が主体となって、シャドウバースの新たな魅力を発掘して、広報活動を通じて広く魅力を発信していくことを目標に活動するコミュニティー形成施策で、大学生リーグも非常に盛り上がっており、21-22シーズンでは111チームも参加しています。

参考動画:近畿大学×Cygames「シャドウバース」特別イベント開催!Cygamesのesports支援とは?!

ブランディング

最近のeスポーツチームは様々なタイトルの選手やストリーマーが所属するだけではなく、アパレルブランド展開や楽曲発表など、多岐に渡る活動を繰り広げています。eスポーツというカルチャーを、ゲーマーだけでなく一般層にも届ける取り組みが試行錯誤されています。

例えば、REJECTというプロeスポーツチームでは、アパレルブランド「ALMOSTBLACK」を手がけるファッションデザイナー中嶋峻太氏をディレクターに迎えて、昨年9月からファッションアイテムを展開しています。

情報発信力を高める活動は、まさにPRやブランディングそのものです。選手やチームの活躍を国内外に知ってもらうためのPR活動の強化は、応援してくれるファンやスポンサーを増やすためにも非常に重要であり、いくつかのチームは自社でブランディングを強化したり、私たちのようなエージェンシーとともに発信力を強化しています。

チームではないですが、Riot Gamesの「League of Legends」や「Valorant」は本当にイケていて、K-POPやBase Houseのようないま人気のジャンルと巧みにコラボして興味をもつ人たちのジャンルも広げています。

極論、ゲームのことをよくわからなくても「eスポーツ=イケてる」と思われるだけでも、大きな前進です。

eスポーツに社会的な価値を付加する

eスポーツが社会に役立つものであることを伝えていく活動も非常に重要です。

「ゲームやろうぜプロジェクト」は、筋ジストロフィーや脊髄性筋萎縮症といった小児期に発症する神経筋疾患の専門病院で、eスポーツを通じて人との関わりを増やしたり、社会やコミュニティへの参加を促す、という目的で行われています。

eスポーツのおかげで生きることに前向きになれたり、リハビリテーションの一環として取り入れられたりすることは、eスポーツが一般的なものとして受け入れられるきっかけにもなります。

グランツーリスモSPORTと日本アクティビティ協会の取り組みで、深刻化している高齢者男性のアクティビティ不足の改善を図るため、高齢者施設にデジタルデバイスを取り入れた活動を取り入れる活動が、2017年の敬老の日に実施されました。

不定期で施設内の高齢者が交流する機会として、ゲートボールなどのアクティビティを実施していたものの、男性高齢者の参加率が低いという課題を抱えていました。これを解決する手段として、25名の参加者にリアルドライビングシミュレーター「グランツーリスモSPORT」をアクティビティとして導入したところ、男性シニアのアクティビティ参加率が5%から21%に改善しました。さらに、ゲームプレイが脳科学の観点で前頭葉機能・認知機能の改善傾向がある(諏訪東京理科大学・篠原菊紀教授の協力による調査 ー2017年、Go/No―Go 課題測定及びMMSE 検査の結果に基づく)という結果もでています。

こうした「eスポーツは社会にも役立つ」というメッセージを伝え、より多くの人々にとって当たり前の存在にしていくための活動も、日本でのeスポーツの浸透につながります。

eスポーツ × PR = 無限大

プラチナムでは「いいモノを広め、人々を幸せに」というビジョンに共感した社員たちが日々、様々なクライアントに対してPRのサポートをしています。

よいモノ、素晴らしいモノは、広く知ってもらうことでさらに価値を生み出します。今回ご紹介したeスポーツもまた、私たちが日々サポートしている分野の1つですが、今後も、メディアやSNSをはじめ時代にあった手段を駆使して、いいモノを広げる活動を展開していきます。

この記事をみて、少しでもeスポーツに興味を持っていただいた方がいたら幸いです。


株式会社プラチナム 伊藤